流されて靴うしなへる氷旗 生駒大祐「水界園丁(2019)港の人」
氷旗とは、かき氷屋の店先に掲げる幟。白地に青い波と鳥、赤い氷の文字を描いたものがよく知られます。
友達と川に行ったときの光景でしょうか。水に戯れているうちに靴を流してしまった。もう喉がからから。土手に上がると、氷旗が目に入った。そちらへ靴もなく裸足で歩み出します。
今眼前の景ではなく、夏の日の思い出だと思いました。もしかしたら女友達と一緒だったのかも知れません。なぜなら、靴を失くすほど夢中になった特別なひとときだったのですから。太陽。水の匂い。友達の声。喉の渇き。埃っぽい道の向こうに翻る旗。全てがたった一度きりのあの夏のこと。記憶に旗の青と白と赤がくっきりと刻まれます。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」