きご・季語【超初心者向け俳句百科ハイクロペディア/蜂谷一人】




季語を通して季節を実感し、自然の奥深さに触れることが出来ます。雪月花などもともとは和歌の題詠に詠まれた言葉で、千年以上もの歴史を持っています。和歌から連歌に受け継がれ、室町時代には300ほどが「連歌至宝抄」という本に載せられています。連歌は俳諧(連句)へと発展し、季語の数もふえてゆきました。江戸末期には3000、今日ではおよそ8000とも言われます。かつては四季を代表することばだけでしたが、今日では季節のはざまや微妙な季節感まで表現できるようになりました。夏なのに秋の気配が漂う夜を意味する「夜の秋(夏)」などが新しい季語です。さらに冷蔵庫やナイターなど新製品や横文字が加わりました。今日では東北の「やませ」、沖縄の「ウリズン」など地方独特の気象用語なども加わって、季語の世界を豊かにしています。

美術の世界では最初シンプルだったものに、色々な要素が付け加わって巨大化してゆくことをバロック化と呼びます。ちなみに「バロック建築」を百科事典でひいてみましょう。「17世紀のイタリアを中心にヨーロッパに展開した建築様式。非古典的、感覚的効果を狙い、複雑な曲線、壮大かつ動的、華麗で絵画的な特徴をもつ」とあります・複雑かつ壮大というところがポイントです。ルネサンスのあと、建築の世界でも美術の世界でも複雑かつ壮大な作品が次々に登場します。人々がより強い刺激を求めるようになり、目立つ作品、驚かせる作品を追い求めるようになったからに他なりません。季語の世界にもまさにバロック化が起こっているのです。

さて、一句の中で季語はどういう存在なのでしょうか。少々唐突ですが ここに、とんかつ定食があるとします。揚げたてのきつね色のとんかつ。じゅんじゅん音を立てています。見るからに美味しそう!でも皿の上にあるのはとんかつだけではありません。付け合せの千切りキャベツ。薄切り胡瓜。トマトが一切れ。パセリ少々。定食ですから御飯と豚汁、漬物がついています。季語とはと問われると私は「このとんかつのようなもの」と答えることにしています。キャベツやトマトは季語以外の部分。つまり、一句の中心が季語。この季語を引き立たせるのがその他の言葉というわけです。トマトやキャベツがどんなに新鮮でも、それだけでは電車を乗り継いでこのとんかつ屋さんを目指す動機にはなりませんよね。とんかつ屋さんはカツが勝負。とんかつ定食は、やっぱりとんかつが美味しそうでなくてはね!

とんかつ定食おかはりの春キャベツ   一人

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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