いまここ【超初心者向け俳句百科ハイクロペディア/蜂谷一人】




俳句は「いまここ」の文学だと言われます。人は未来を思えば不安になります。過去を顧みれば後悔に苛まれます。しかし、私たちが生きているのは「いまここ」。いつか、どこかではありません。いまここを詠むことで、俳句は力強くなり迷いがなくなります。

 俳人の櫂未知子さんは更に発展させて「今彼」理論を提唱しています。恋愛では過去の彼を振り向かず、現在の彼に集中すべきと言われます。「別れたら次の人」と割り切るドライさが成功の秘訣なんだとか。俳句もそれと同じ。「別れたら次の季語」です。

 句会に出す句も同様です。今を詠むか、あるいは少し先を詠むか。なぜ先を詠むのがいいか。理由があります。走り茶、走り藷(いも)、走り蚕豆(そらまめ)、走り蕎麦など、日本語には「走り」がついたものが沢山ありますよね。季節に先立ったという意味で、珍重されます。人よりも早く手にすることは小さな喜び。粋で洒落たことなのです。逆に季節に遅れるのは野暮。今日の句会で、全然点が入らなかったというあなた。もしかしたら、あなたの俳句が悪かったのではなく、過ぎた季節を詠んだことが敗因だったのかも知れませんよ。

 走り茶の針のこぼれの二三本   石田勝彦

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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