つばめ「(春)動物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】

南海の果てよりつばめつばめかな  堀本裕樹「熊野曼荼羅(2012)文學の森」

熊野は補陀落(ふだらく)信仰の地。補陀落とはインドの南海岸にあるとされる観世音菩薩の住む山。南方浄土を意味します。日本でもこの名の霊地が信仰され、熊野灘もその一つでした。那智山に立つ青岸渡寺は、古くから補陀落へわたる出発の寺とされてきました。行者は極楽往生を願って舟に乗り、ここから太平洋に乗り出しました。舟には入母屋作りの箱が置かれ、三十日分の食糧や水とともに行者が入ります。入り口は板などで塞がれ、箱が壊れない限りそこから出ることは出来ません。補陀落渡海は水葬への舟出でもあったのです。

さて掲句。南海の果てとは、おそらく補陀落の地。つばめたちは、渡海した人々の霊を慰めるためにやってくるのか。それとも南方浄土からの福音を伝えてくれるのか。つばめつばめというリフレインに万感の思いが込められています。

この句は、句集「熊野曼荼羅」巻頭の一句。補陀落の地、熊野は明るい海に抱かれた信仰の地であると同時に、死者たちの魂が寄り添う黄泉の国でもあります。熊野曼荼羅には、そこにゆかりの深い作者でなければ感知し得ない光と闇が描かれているのです。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

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