や・きれじ/や・切字【超初心者向け俳句百科ハイクロペディア/蜂谷一人】




テレビCMを思い出してください。大抵の場合1カットではありません。複数のカットをつないでいる筈です。この映像のつなぎ目を編集点と呼びます。切字の「や」とは何ですかと質問されたら、私は「編集点のようなもの」と答えることにしています。名句を例にとってみましょう。

菜の花や月は東に日は西に   与謝蕪村

この句の切れ字は、「菜の花や」の「や」です。まず画面に菜の花が写っています。鮮やかな黄色の花です。次のカットで東の空に昇る月が写されます。カメラはそのままパンして西の空に沈む太陽をとらえます。ちなみにパンとは、三脚や自分の体を支点として左右にカメラを振ること。ちなみに、上下に動かす場合は、パンアップ、パンダウンです。1カット目は菜の花の固定ショット。2カット目は月から太陽へのパン。私なら丘の上にカメラを置き俯瞰カットとして撮影します。そのほうが風景が広くなり、パンもゆったりとした速さになるからです。この二つのカットをつなぐのが編集点です。菜の花と日月。直接関係のない二つの要素を「や」で違和感なくつなぎます。これが切字の「や」の働きです。

さて、この映像の文法をあてはめれば、「や切り」の項目で指摘した「や」の前と後ろで別のことをいわなければならない、というルールの理由がわかります。カットをつなぐときには禁忌があり、そのひとつが「同ポジ」と呼ばれるもの。カメラを移動せず、同じ位置から同じアングルで撮影した映像同士はつなげません。例えば、人物を撮り、続いて同じ位置から人物のいない風景を撮ります。この2カットをつなげるとぱっと人が消えたように見えます。特殊撮影など、効果を狙った場合はいいのですが、通常の動画でこれをやるといかにも不自然です。同じように切れ字の「や」を編集点と考えれば、前後でカメラの位置やアングルを変えなければならない訳です。わかっていただけたでしょうか。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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