日本の伝統芸能には型があります。茶、活花、能、歌舞伎。型に習熟し自分のものにした上で、今度はそれをはみ出してゆく。名人といわれる人たちはそれを実践してきました。当然 俳句にも型があります。最も基本的な型がこれ。
四文字の季語+や+中七+名詞
名月や男がつくる手打ちそば 森澄男
俳人 藤田湘子が「新版 20週俳句入門(角川学芸出版)」で推奨している型です。この入門書は大変よくできていて、誰でも型さえ覚えればある程度の習熟が可能なように書かれています。従来の入門書によく見られた精神論を遠ざけ、テクニカルに俳句作りの要点をまとめた画期的な書だと思います。
この型で大切なのは、「やで切った後ろは季語と無関係な言葉を入れること」。名月と手打ちそばが関係ないからこそ、一句の世界が広がります。もう一つは、「中七の言葉が下五の名詞のことを言っている」ということ。「男がつくるのが、手打ちそば」。つまり中七下五はひとつながりのフレーズでなければなりません。
この型を変形して下五に動詞や形容詞を置くことも出来ます。
四文字の季語+や+中七+動詞(形容詞)
玫瑰(はまなす)や今も沖には未来あり 中村草田男
ここでも
①上五に季語を置き、やで切る
②中七下五は一続きのフレーズである
③中七下五は、上五の季語と全くかかわりのない内容にする
この3原則は下五に名詞を置く場合と同じです。
さて、ここまではいずれも上五を「や」で切りました。やや上級コースとなりますが「や」を使って中七で切ることもできます。
上五+中七+五文字の季語
ひつぱれる糸まつすぐや甲虫(かぶとむし) 高野素十
この中七の「や切り」を嫌う俳人もいます。ごたごたと言葉を詰め込み過ぎる感じがするのでしょう。一方、熱烈に支持する俳人もいます。十七音を最大限利用して万物の細部にまで迫ろうというのでしょう。ゆったりと作るか、詰め込んで作るか。一言でいえば俳句観の違い。イギリスのEU離脱と同じで全員の意見が一致することはありません。