季語とその他のことばを取り合わせるとき、どんなルールがあるでしょうか。かたちの似たものを並べるのを「見立て」といいます。わかりやすいのですが、うまく作らないと少々安っぽくなります。私がお勧めしたいのは「気分」です。
季語には気分があります。というと驚かれるかもしれませんが、たとえば桜はどうでしょう。盛りの美しさから、つややかで華やかな気分。一方でぱっと散ることからいさぎよい気分。こんな風に季語の気分を捉えて、それに寄り添う言葉を探します。「春近し」なら、だんだん明るくあたたかくなってくる気分。
湖に春の近さの帆ありけり 松根東洋城
寒さの厳しい間は見かけなかった舟の白帆を見かけて、春が近いことを実感しています。帆を見つけたのがちょっとうれしい。春を見つけるのもうれしい。うれしい気分で春の近さと帆がつながりました。こんな風に、形が似たものを並べるのではなく、気分が似たものを組み合わせてみてください。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」