句会で出句された句を用紙に清書することです。この作業によって作者の筆跡が消え清記者の筆跡に変わります。筆跡から作者を推理することが出来なくなり、純粋に句のよしあしだけを判断するようになります。とはいえ、世の中には達筆な方も悪筆の方もいるもの。上手な字で書かれた句はよく見え、汚い字で書かれた句は、それなりに見えるもの。心の中で字のうまいあの人に清記してもらいたいと願ったりもします。到底かなわぬ願いではありますが。
もしも書き間違ったら修正液で丁寧に直します。上からボールペンでぐちゃぐちゃと塗りつぶしたりしてはいけません。最後に清記者の名前を記します。私が責任をもって書きました、というしるしです。
さて、こんなに注意していても問題が起こることがあります。なんということでしょう、清記された句が間違っていることがあるのです。作者自ら訂正するわけにはいきません。誰が作ったかばれてしまいますからね。そんなときは披講するひとに静かにメモを回します。口頭で訂正してもらうのです。
俳人の西村和子さんは選句とは「他人の句を選ぶ時間であるとともに、自分の句と再会する時間」と述べています。美しく清記された句が自分のところに回ってくると、立派になった我が子との再会のように感じられます。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」