今や若手作家の登竜門となった感のある俳句甲子園。俳都・愛媛県松山市で毎年8月に開催される高校生を対象とした俳句コンクールです。松山は正岡子規、高濱虚子らの出身地。それを記念して1998年に始まりました。レベルは非常に高く、最優秀句を通してみてみると俳壇の未来がうかがわれようというもの。
第一回 秋立ちて加藤登紀子が愛歌う 白石ちひろ 松山中央高
第二回 朝顔の種や地下鉄乗り換えぬ 森川大和 愛光高校
第三回 裁判所金魚一匹しかをらず 菅波祐太 愛光高校
第四回 カンバスの余白八月十五日 神野紗季 松山東高
第五回 夕立の一粒源氏物語 佐藤文香 松山東高
第六回 小鳥来る三億年の地層かな 山口優夢 開成高校
第七回 かなかなや平安京が足の下 高島春佳 紫野高校
第八回 土星より薄に届く着信音 堀部葵 紫野高校
第九回 宛先はゑのころぐさが知つてをる 本多秀光 宇和島東高
第十回 山頂に流星触れたのだろうか 清家由香里 幸田高校
第十一回 それぞれに花火を待つてゐる呼吸 村越敦 開成高校
第十二回 琉球を抱きしめにゆく夏休み 中川優香 菊池高校
第十三回 カルデラに湖残されし晩夏かな 青木智 開成高校
第十四回 未来もう来ているのかも蝸牛 菅千華子 厚木東高
第十五回 月眩しプールの底に触れてきて 佐藤雄志 開成高校
第十六回 夕焼や千年後には鳥の國 青本柚紀 広島高校
第十七回 湧き水は生きてゐる水桃洗ふ 大橋佳歩 幸田高校
第十八回 号砲や飛び出す一塊の日焼 兵藤輝 宇和島東高
第十九回 豚が鳴く卒業の日の砂利踏めば 池内嵩人 松山中央高
第二十回 旅いつも雲に抜かれて大花野 岩田奎 開成高校
第二十一回 滴りや方舟に似てあなたの手 桃原康平 興南高校
第二十二回 中腰の世界に玉葱の匂ふ 重田渉 開成高校
第二十三回 太陽に近き嘴蚯蚓垂れ 田村龍太郎 海城高校
第二十四回 ウミユリの化石洗ひぬ山清水 辻颯太郎 岡山朝日
そこには選ばれていませんが、私の印象に残る一句があります。
絵も文字も下手な看板海の家 小野あらた「毫(2017)ふらんす堂」
作者の恩師である佐藤郁良さんが句集の序を書いていらっしゃいます。「その当時のあらた君は、決してはきはきしているとは言えない、どちらかと言えばおとなしくおどおどした感じの少年であった。目から鼻に抜けているような先輩達に囲まれて、皆にマスコット的存在として可愛がられるうち、いつの間にか『あらら』という俳号で呼ばれるようになった。そのあらら君が高校一年のとき、初めて開成Bチームの一員として俳句甲子園に出場した。先輩達のAチームが初日に敗退するアクシデントの中、一年生ばかりのBチームが順調に勝ち上がり、ついに優勝してしまった。その大会で披露されたのが冒頭の海の家の句なのである」と。
掲句の海の家はかなりしょぼい。ですが圧倒的なリアリティがあります。現実の海の家ってこんな感じだよね。誰もが思っていて、俳句に詠むまでもないと見向きもしなかった素材を見つけてきて作品にした。この素材選びのセンスがすごい。俳句甲子園で審査員が軒並み、9点、10点をつけたというのも頷けます。
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html
ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア