俳句では「言いたいことを言ってはいけない」と言われます。俳句を始めた人がまず面食らうのがこれ。では、何をいえばいいの?と思いますよね。私もそうでした。でも実は何も主張する必要はないんです。ただ描写すれば良い。
あるとき、精神科医の名越康文さんと話していて、この話題になりました。名越さん曰く、カウンセリングとそっくりなのだそうです。精神科医のところに患者さんが来るとします。医師は、患者さんにやってほしいことがある。ところが、言葉で指示するとかえってうまくいかなくなったりする。例えば、親子関係に悩んでいる患者さんに「お母さんに親切にしてください」と言う。患者さんは母親にプレゼントを贈ります。でも、それはあくまで上辺だけの行動。心がこもっていないから、母親と和解するのにかえって時間がかかたりする。大切なことは自分で掴まなくてはいけない、と言うのです。では、どうやって自分で掴ませるか?そこで描写が登場します。「今日は暑かったけれども、そんなに悪い日ではなかったよね」と医師が言う。そんな何でもないことが、患者さんに気付きを与えるそうです。暑かった、でも悪い日ではなかった。前半が後半の理由になっていません。あれ、これって?どこか俳句に似ていると思いませんか?俳句で避けるべきは理屈。因果関係を説明するよりも、ありのままを描写した方が良い。まさに俳句そのものではありませんか。
名越さんはこうも言っていました。芭蕉の時代、宗匠は地方の名士を集めて句会をやっていた。そこにカウンセリングの効果があったのではないか。名士というのは、威張っているようで、実は一族郎党の生活の責任を負っています。その心理的プレッシャーたるや相当なものだったでしょう。その苦しみを癒すのが句会の一つの働きだったのではないか。
そういえば、私には思い至ることがありました。俳句を始めたばかりの頃。管理職になったものの、会社の中で歯車としてやっていかなくてはならない自分に少々疲れていました。ところが句会の席では、会社の業績や収支を忘れることができる。その事がとても大事に思えたのです。さらりとしていながら濃密な人間関係が句会にはあったからです。俳句をやっている方なら、わかっていただけるのではないでしょうか。
こうした句会の効用について、これまで語られたことはあまりありません。しかし、私には確信があります。もっと知りたくなったあなた。名越さんとの対話を収録したYouTubeがおすすめです。「ハイクロペディア いいたいこと」でポチッと検索。いつでも無料でご覧になれます。
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