かえりばな「返り花(植物)冬」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




返り花川は巌の段に急    岡田一実「光聴(2021)素粒社」

帰り花は冬の季語。「小春日和に誘われて春の花が季節外れの花をつけること。本来は桜だが、山吹,つつじなどの場合もいう」と歳時記に記されています。掲句は、山間を流れる急流でしょうか。岩が段をなして、小さな滝を作っています。その上に枝を伸ばして花をつける桜。はらはらと散りかかると、花弁は澄んだ流れの中へ。きらめくしぶきと共に小滝を落ちてゆきます。鮮やかに山中の光景を切り取った一句。よく晴れた冬の午後、しみるような青空ときらめく水、返り花のほのかな色彩が日本画を思わせます。

ところで雅楽や能では、序破急という言葉が使われます。曲を構成する三つの部分を言い、序は無拍子または低速度で展開。破で拍子が加わり、急で加速が入ります。この句には、段、急、という楽曲を思わせる言葉が用いられ、まるで能の舞を見ているような幽玄さを感じさせてくれるのです。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)






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