さいかくき「西鶴忌(秋)生活」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




男てふ別の生き物西鶴忌  吉田林檎「スカラ座(2019)ふらんす堂」

西鶴忌は旧暦8月10日。元禄時代の作家 井原西鶴(1642〜93)の忌日です。大阪の町人で初め俳諧を学びます。一昼夜で詠む数を競う矢数俳諧で、2万3500句という大記録を作りますがのちに散文に転じました。「好色一代男」「好色一代女」「好色五人女」などの浮世草子で知られます。掲句は、西鶴が描く恋愛模様をさしてのものでしょうか。女性が男性を「別の生き物」と言うのは不満があるから。でも決裂寸前で、なんとなく踏みとどまる様子も想像できます。男女の関係なんてそんなもの。それを西鶴忌という珍しい季語で、受け止めてみせる作者の手腕はなかなかのものだと思いました。
ちなみに、忌日の季語を変えるとどうなるのでしょうか。試してみましょう。

男てふ別の生き物夢二の忌
あまりにも儚いですよね。

男てふ別の生き物桜桃忌(太宰治の忌日)
いかにも不実な感じ。

男てふ別の生き物憂国忌(三島由紀夫の忌日)
男女のことというより、政治も絡んでもっと複雑な。

西鶴忌なら、肉食系男女の痛快なエロティシズムを感じます。ここはやはり西鶴忌でなくてはならないようです。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)

 






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