あさがお「朝顔(秋)植物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




あさがほのかたちで空を支へあふ 小津夜景「フラワーズ・カンフー(2016)ふらんす堂」

朝顔、もちろんご存知ですよね。あの花が空を支えているというメタファーが素敵な一句。ですが「あさがほのかたちで」の「で」が気になります。「あさがほのかたちが」ならばそのままの意味。空に開いたラッパ型の花が、柱のように空を支えている。「支えあふ」ですから一つの花ではなくいくつかの花。一斉に花をつける朝顔の特性によく似合っています。でもこの句では「で」。本来朝顔ではないあるものが、朝顔の形となって空を支えている。そんな意味になるでしょうか。ならば朝顔でないものって何?そんな疑問が湧いてきます。

作者はこれについて手がかりを残していません。そこで私なりに考えてみることにしました。例えば、さまざまに形を変える霊的存在があって、ある時は朝顔の形になって空を支えているのかもしれません。

こうした考えはアニミズムと呼ばれます。例えばアイヌの人たちの信仰では、全てのものに「ラマッ」という魂が宿っています。信仰の中心である熊は「神が毛皮と肉を携えて人間界に現れたもの」。つまり霊魂が熊のかたち『で』現れた存在です。イオマンテという祭りは、集落で大切に飼育した熊を殺し、その魂であるカムイを天界に送り返します。

掲句の朝顔もやがて霊魂が花を去り、風になったり鳥になったりするのかもしれません。長い時間を存在する霊魂にとって、朝顔である時間は短いもの。しかし、その時間が短いほど花の色が際立つように感じられるのです。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)






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