あらせいとう「(春)植物」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




あらせいとうに突つ込む母の暴投は  今井聖「九月の明るい坂(2020)朔出版」

あらせいとうは春の季語。南欧の海岸地方原産のアブラナ科の植物で、ストックとも言います。大歳時記には「四、五月ごろ茎の先に四弁の十字花をつけ、色は白、薄紅、濃紅、紅紫と多彩で一重咲きと八重咲きがあり、ほのかなよい香りを放つ」と記されています。春先、房総の海岸をドライブすると、このストックが花盛り。カラフルで華やかで海の青とよく似合います。

さて掲句。キャッチボールをしたかった少年時代を詠んだ句だと思いました。まず父に相手を頼みますが、寝ていて起きてくれません。仕事でいないのかもしれませんが。拗ねていたら、母がグローブをつけて相手をしてくれました。ただし、腕は期待できません。コントロールがつかず、ボールがどこに飛んでゆくかわからない。とうとう花壇に突っ込んでしまいました。ストックではなく「あらせいとう」としたところが一句の眼目。この音から「あら!」という母の叫びが想像できるのです。結局野球は上達しませんでしたが、少年時代の大切な思い出です。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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