ひなが「日永(春)時候」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




承和色の布を買ひたる日永かな  浦川聡子「眠れる木(2012)深夜叢書社」

承和(そがいろ)って何でしょうか。早速調べてみてみました。菊の花のような少しくすんだ黄色のこと。平安時代の承和(じょうわ)年間(834〜848)仁明天皇が黄色い菊を好んだことに因むそうです。では日永とは。歳時記によれば「春分を過ぎると夜よりも昼の時間が長くなり始める。日中ゆとりもでき、気持ちものびやかになる。実際に最も昼が長いのは夏至の前後であるが、春は冬の短日をかこった後なので日が長くなったという感じが強い」

物理的な昼の長さをいうのではなく、感覚的なものをさす言葉なのですね。のびやかな春の日に、黄色い布を買う作者。春と黄色がぴったりの取り合わせです。何の布なのでしょう。春ショール。風呂敷。着物には詳しくないのですが装いものだったらいいな。

いずれにせよ、買い物は心弾むもの。女性が布を買うとなれば尚更でしょう。平安の昔から続く雅な色が、春のひと日を艶やかにいろどります。布の用途を言わなかったことで想像が広がる一句です。
ちなみに承和は決して穏やかな時代ではなく、歴史上「承和の変」で知られます。仁明天皇の皇位継承を巡って、藤原良房が政敵を排斥した事件です。政変を生き延びた承和色に、平穏な日々への祈りを託して鑑賞したいと思います。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html






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