岡山へ行きたし桃を五つ食べ 西村麒麟「鴨(2017)文學の森」
よく言ってくれました。桃と言えば岡山。他県の方の不興をかってしまうかも知れませんが、岡山と桃のえにしは深いのです。だって駅前の銅像が桃太郎。新幹線を降りたあなたを最初に迎えるのは、犬猿雉を従えた凛々しい彼の姿です。
作者はよほど桃好きなのでしょう。五つも食べた上に、岡山に行きたいと言っている。それなら清水白桃が店頭に並ぶ七月がお勧め。桃は歳時記では秋の季語なんですけどね。
岡山の桃は袋を掛けて直接日光に当てないので、色白。果皮が薄く上品な雰囲気を醸し出しています。栽培面積こそ全国五位ですが、「白桃」や「清水白桃」の美味しさと言ったら。県民の桃への思いは強く、時期になると新幹線のホームに「桃娘」が登場して、即売を行うほどです。
なんやこいつ。随分肩入れしているな、と思われた方も多いでしょう。だって仕方ないじゃん。岡山県出身なんだから。今風に言えば「桃萌え」です。それに桃への偏愛は、私だけではありません。
中年や遠くみのれる夜の桃 西東三鬼
この句を詠んだ三鬼も、岡山県の出身。夜の桃という措辞に、手の届かない若さへの憧れやエロチックなものを感じます。いえいえ、掲句の作者 麒麟さんも「桃萌え」だと主張したい訳ではありませんよ、念のため。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)