ふたたびとなきあをぞらを鳥渡る 日下野由季「馥郁(2018.9.25」
同じ空はひとつとしてない。俳人の宇多喜代子さんは、よくそうおっしゃいます。地球が生まれて45億年。その間、一回も同じ空はありませんでした。雲が違います。風が違います。青さが違います。だから掲句の「ふたたびとなき」という措辞が生きてきます。そこを鳥が渡ります。秋になって北方から白鳥や鶴、鴨など沢山の鳥が渡ってくるのです。秋の季語ですから空の青さもひとしおです。白鳥だとすれば、青に白の対比が目に染みます。涙がこぼれそうになるのは、彩の美しさのせいだけではありません。すべてが一回限り。空も鳥も、そしてそれを見る私も。そう考えると、この一瞬がかけがえのない、限りなく尊いものに思えてくるのです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)