秋の蝶ちひろ画集に呼び戻す 広渡敬雄「間取図(2016)角川文化振興財団」
季語は秋の蝶。ちひろとは「岩崎ちひろ(1918-1974」」のことでしょうか。画家、絵本作家で「花の童話集」などの作品で知られます。やわらかい線とにじんだ美しい色彩で人気を呼びました。まるで画集から飛びたったかのような秋蝶。水彩画のような淡い色彩が秋の光に映えます。弱弱しい飛び方が気になったのか、『絵の中の世界に戻っていいよ』とやさしく呼び掛ける作者。
淡くたおやかな一続きの夢のような世界をつくり出しています。そう、それは岩崎ちひろの世界そのもの。夢がうつし世に滲みだして、花が蝶になり、蝶が少女に変わる。はかなげな少女に見つめ返されると胸が少しどきどきします。久しぶりにちひろの絵本を手に取りたくなった一句です。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)