一瞬が一瞬を追う雪解川 宇多喜代子「森へ(2018)青磁社」
暖かくなって雪が溶け始めると、川が増水して轟々と流れます。それが雪解川。私は巨大な砂時計のような川を想像しました。砂時計の落ちてゆく砂の一粒が一瞬を示すように、雪解川を流れゆく一滴が一瞬を表しているようです。一滴が過ぎた後を別の一滴が追ってゆく。飛沫を上げながら時間が過ぎてゆくのです。古来、人間は時間について考えてきました。なぜ時間は一方通行なのか。過ぎてゆく時はなぜ戻らないのか。人はなぜ、時の流れに抗えないのか。時間の川というメタファーは、そんな疑問に対する一つの回答です。川を流れる水は戻りません。上流から下流へと過ぎてゆくだけで、決して後戻りはしないのです。そして、雪解川の圧倒的な水量は、人をたやすく押し流してしまいます。時間に関する考察を眼前の景色として描いた一句。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」