あき「秋(時候)」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】




会をしに出てゆく秋の体たち 鴇田智哉「エレメンツ(2020)素粒社」

日本語としては意味がつながっていますし、難しい言葉が使われている訳でもありません。なのにわからない。何の会だろう。どこから出てゆくのだろう。秋の体って何だろう。わからないことだらけです。

作者は2021年8月8日放送のNHK俳句で「寝覚めで頭が不確定なときにメモを取り、それをもとに作った句」だと証言しています。メモには「会」という文字が書いてありました。では「会」とは何だろうと疑問が湧いてきたのだとか。句会、県人会、展覧会、確かに色々な会があります。当日のゲストの茂木健一郎さんは運動会ではないかと推理していました。鴇田さんは友人に芋煮会だろうと言われたそうです。「会」って何だろうと考えれば考えるほど、不思議さが募ってゆく。この句にはそうした魅力があります。

作者が所属する「オルガン」という同人誌があり、24号に句集「エレメンツ」の合評が掲載されています。そこで宮本佳世乃さんが「秋という言葉には、秋の身体の透明性、夏と比べた自由度を感じるんです」と述べています。なるほど、春のからだ、夏のからだ、冬のからだと、季節を入れ替えてみると、秋が一番透明な感じがする。その通りだと思います。少し透明になった沢山の体が思い思いの会に出かけてゆく。そういう鑑賞も可能だと思います。

しかし、無理に 言葉=意味と考えなくてもいいのかもしれません。例えば音と捉えてみる。声に出して掲句を読むと「か行」の音が響いてなんとなく気持ちいい。感性アナリストの黒川伊保子さんは、あるインタビューで「Kの音を発音する時は、喉の奥をいったん閉じて、ここから息を強く発射します。息が口腔部を勢いよく抜けますよね?だから、この音からは、スピード感を感じる。発音する時に、唾と混ざらないので乾いた印象もある(後略)」と述べています。かい、あき、からだ。それぞれの言葉にスピード感があって乾いている。その語感を楽しむことができます。無機質で硬質、乾いていて非叙情的、しかし美しい音楽のような一句。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)

 






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