凡そ天下に去来程の小さき墓に参りけり 高濱虚子
およそてんかにきょらいほどのちいさきはかにまいりけり。七・十三・五の25音。定型を旨とする伝統派の中では異例の長さと言えるでしょう。去来は芭蕉の高弟の一人。墓参りが秋の季語。去来の別荘、京都の落柿舎を訪ねた際の句と言われています。虚子は不思議な人で、有季定型を標榜しながら、自分は平気で長大な句を詠んだり、無季の句を作ったりしています。また花鳥諷詠を提唱しながら、日本的な情趣をはみ出す句も作っています。おそらく、熟練したゲームプレイヤーの顔と、ルールを破るアーティストの顔の二つを持っていたからでしょう。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」