次の世は雑木山にて芽吹きたし 池田澄子「此処(2020)朔出版」
どうやら作者は前世と来世、あの世とこの世を自由自在に行き来できるようです。
じゃんけんで負けて蛍に生まれたの
有名なじゃんけんの句では前世を詠いました。掲句では来世を詠っています。一般に俳句は「今ここ」を詠むものとされます。短い詩形ですから眼前にないものを詠むのはとても難しいのです。抽象的になり、リアリティが損なわれてしまいます。それなのに来世です。眼前にないどころか、見たことすらありません。生まれ変わるのがなぜ雑木山なのか。それもよくわかりません。頭をしぼってこんなことを考えました。杉や檜の美林ではなく里山。人の家に近くて、しかし市井ではない場所。この適度な距離がまことに作者らしいのではないか。雑木山の芽吹きは、小さくてつつましくて、でも元気がよいのでしょう。やがて、成長して雑木山に聳える樹になるのかも知れません。整然と植林された美林では、こんな楽しい空想は膨らみません。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」