試験会場に持ち込める参考書のようなもの。俳人にとっては救世主のような存在です。吟行や席題では限られた時間に句を作り提出しなければなりません。その修羅場で解答例を自由に閲覧できるのが歳時記。パクリは許されませんが、例句からインスピレーションを受けるのは自由。試験官に見つけられても、とがめられることはありません。
さて、どの歳時記を買ったらいいでしょう、とよく尋ねられます。最もよく使われているのは角川学芸出版の「俳句歳時記」。合本になっているものもありますが、持ち運びに不便なので春、夏、秋、冬、新年の5冊に分かれた文庫版が重宝です。歳時記の入った電子手帳を使えば、一年中いつでも対応できるので便利ですが、紙の余白に書きこんで自分だけの一冊を作ってゆく楽しみはありません。
最新の第五版には季語の本意や注意が記されていて話題になっています。例えば「秋の水 淡水のことで、主に景色をいう。海水や飲む水には使わない」と書かれています。
これを読んでギクッとしたひと、いませんか?淡水、つまり川や湖の景色である。飲む水ではない。この二つがポイントですよ。
秋水がゆくかなしみのやうにゆく 石田郷子
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」