旅人の木という影の涼しかり 対馬康子
一般に海外詠は難しいとされます。季節感が日本とは違いますから季語の使い方が困難。かの加藤楸邨がシルクロード吟行で季語を見つけるのに苦労した、なんて逸話を聞くと余計に躊躇してしまいますよね。でも、挑戦してみたい。そんな時にそなえて、成功する秘訣を掲句から探ってみたいと思います。
まず旅人の木とは何でしょうか。響きに惹かれて調べてみると「マダガスカル原産のバナナに似た植物」だとわかりました。なんとマダガスカル!私は行ったことがありませんが、俳句に詠むには難しい土地柄でしょう。しかし掲句を一読して違和感がありません。旅人の木の写真をみると、バナナに似た葉が扇のように半円形に並んでいます。和名は扇芭蕉。一説によれば葉柄に雨水を溜めて、乾燥地帯をゆく旅人の喉を潤したことから名付けられたそうです。マダガスカル航空の尾翼に描かれるなど土地のシンボルとなっているのだとか。旅先の日盛り。影を作ってくれる植物が本当にありがたかったのでしょう。だから涼し。樹高は平均7メートルといいますから、影の大きさもいかばかりか。旅人の喉を潤し、肌の火照りを冷まして心まで癒してくれる大きな木です。
さてここからが考察。掲句にはカタカナが使われていません。つまり地名や珍しい文物を紹介している訳ではないのです。旅人、木、影、涼し、という馴染み深い言葉だけで構成されています。
そのことですんなり読むことができる。それぞれの言葉を何かの象徴として味わうことができるのです。おそらくここがポイント。殊更、海外詠であると主張するのではなく、よく味わえば海外のことだと納得できる、そんな作り方が成功の秘訣なのではないでしょうか。
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