カレー【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】




南風吹くカレーライスに海と陸  櫂未知子

この句については作者から直接、誕生の秘密を伺いました。自宅のマンションのベランダで、旦那様とランチをとっていた時のこと。たまたまカレーの話になったのだそうです。(ただし食べていたのはカレーではなくシャンパンを抜いたりしていたとか)

なぜイタリアンを食べながら、カレーの話になるのか。少々不思議ですが、それが事実。作者はカレーのご飯とルーを別々に食べたい。その方がお皿を汚さずきれいに食べられるから。ところがご主人は混ぜて食べるのが好きだという。ああ、混ぜないほうがいいのに、と見ていたらこの句ができた、とのこと。部屋の駆け込んで「カレーライスに海と陸」とメモ。南風は、後でくっつけただけ。確かに夏で風に吹かれていたのですが、特に深い思いもなく斡旋した季語だったようです。

名句のなりたちは、このように不可思議。混ぜているところから何故、海と陸を思いついたのか。おそらく作者にも説明のつかない創作の謎なのでしょう。私としては脚色された美談よりも、身もふたもない事実の方に興味があります。ただ、しかし、それにしても、なぜ、ご飯とカレーを混ぜるのか。私は、別々に食べたい派なのですが。

南風のような大きな季語に、本物の自然を取り合わせるとくどくなってしまいます。本物ではなく、偽物の自然をとり合わせることで一句が不朽にものとなりました。天文の季語に何を取り合わせればいいかという点で、大変参考になる逸話です。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 

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