NHK俳句の中で司会の武井壮さんがこんな句を読みました。
川底の石まるまると山椒魚 武井壮
川底まで見える水の透明感が素敵な一句です。清流に棲む山椒魚の体つきが丸い石の姿と響き合っていますよね。十分出来た句だと思うのですが、作者の武井さんは、どこか気に入らない様子。選者の井上弘美さんに、どこを直したらいいか質問しました。井上さんの答えは「この句で言えば中七。石まるまると、という措辞に変わる言葉を見つけてほしい。言い換え不能な言葉が見つかるまで考える」
この「言い換え不能な言葉を見つける」ことが大事。それが見つかったとき、ジグソーパズルのピースがぴたりとはまったときのように、言葉は動かず鮮明な映像を結んでくれるに違いありません。
そういえば、あるとき櫂未知子さんに名句の背景を伺ったことがあります。
白梅や父に未完の日暮あり 櫂未知子
この一句の中心は未完。これによって、亡くなった父上の生涯に思いをはせることが出来るのですが、俳句ではなかなかお目にかからない言葉です。一体どうやって思いついたのか。櫂さんは先行句をあげてくださいました。
重信忌いまも瑞々しき未完 中村苑子
苑子がパートナーだった高柳重信の死に接して詠んだ一句。亡き人への哀悼の気持ちが胸に迫ります。櫂さんはこの句を覚えていて、父の句に未完という言葉を付与したのです。言い換え不能な言葉を見つけるには類語辞典を活用する方法もありますが、昔の句集を渉猟するのもよいと思います。この未完という言葉は、故人が成し遂げたことと、成し遂げえなかったことの両方が想い起こされる表現。例えばシューベルトの交響曲「未完成」のように美しく、そして儚い。これ以外では言い換えの不能な表現であることがわかっていただけると思います。こうした言葉を見つけるのが推敲。武井さんが「石まるまると」の箇所にどんな言葉をいれて推敲するのか。楽しみが尽きません。
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html
ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア