秋空のラの音高きさようなら 塩見恵介「隣の駅が見える駅(2021)朔出版」
そう言われればアキゾラにはラの音があります。ハルゾラ、ナツゾラ、フユゾラ。それぞれにラの音はありますが、秋空のラが一番高そう。秋は空が一番高い季節なのですから。
考えて見れば、ラの音にもヘ音記号のラ、ト音記号のラなどがあって、さらに五線譜を上に下にはみ出したりもします。低い方のラは男声のバスの音。高い方のラは、ソプラノでしょうか。この句では女性が煌めくようなラの音で「さようなら」を言い切ったのでしょう。「さようなら…」ではなく「さようなら!」と。
子どもたちの「さようなら」は明日の再会を信じていますが、大人の「さようなら」はもう逢えないことを知っています。掲句の「さようなら」が少々切ないのは、秋の空が澄み切っているせいかも知れません。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)