助詞は地雷です。句会に登場する多くの句で助詞が安易に使われています。中でも場所を示す「に」と類例を暗示する「も」は大変危険。先日の句会でこんな句がありました。
大寒もただゆるゆると神田川
いかがでしょう。「大寒も」の「も」が私には問題のように思われました。作者に「も」を使った理由を尋ねると、「大寒の日も他の日も神田川が遅く流れているよ」と言いたかったとのこと。「も、に私の言いたいことが凝縮しているんです」とおっしゃいます。でもちょっと待ってください。俳句ではそのものずばりを言い切ることが大切。類例を示すのは損なやり方です。この句はむしろ
大寒やただゆるゆると神田川
と素直に詠むべきなのです。では場所を示す「に」はどうでしょう。学校で文章の基本を5W1H「いつ どこで だれが なにを どんなふうに どうした」と習ったせいか、俳句でも○○に、と場所を特定したがる方が多いようです。しかし、この「に」、使うとニュース原稿のようになってしまいがち。つまり「報告」です。報告はビジネスの言葉。俳句は詩ですから報告調は似合いません。
安達太良に菊一本や光差す
同じ作者のこんな句も見かけました。やはり「に」が説明。せめて「安達太良の」としてほしいところです。もしも、あなたが「に・も」を俳句で使っていたら一度立ち止まって下さい。吟味してやはりこれしかないと思えばそれで結構。でも多くの場合、別のやり方があることに気づくはずです。ファインディング・ニモ。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」