ふゆくる「冬来る(冬)時候」【最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」/蜂谷一人】

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まつすぐに冬来る森田愛子の墓  小林貴子「黄金分割(2019)朔出版」

冬来るは立冬のこと。新暦11月7日頃にあたります。「暦の上ではこの日から冬に入る。厳しい季節を迎える緊張感が感じられる」と歳時記に記されています。森田愛子(1917〜1947)は若くして亡くなった女性俳人。高濱虚子の写生文「虹」のヒロインとして知られています。

愛子は福井県坂井市三国町の出身。女学校の学籍簿には「品行方正、志操堅固、容儀端正、身孝上品、言語明瞭、言動活発。責任感が強く奉仕心に富む」と書かれました。客観性を重視する学籍簿の記載としては、異例と言っていいでしょう。

二十歳の春に肺結核と診断され、鎌倉の療養所で治療を受けることになります。ここで虚子門下の伊藤柏翠と出会い、俳句の道に進むこことになりました。まもなく虚子の句会に出席するようになり、見る間に才能が開花。1940年、俳句を初めてわずか数ヶ月でホトトギスと玉藻に初入選を果たします。当時、俊英が集ったホトトギス、玉藻ですから、俳壇からは驚きを持って迎えられたことでしょう。このとき愛子23歳。ところが戦争が激しくなり、翌年帰郷を余儀なくされます。

俳壇に彗星のように現れた愛子。虚子はずっと気にかけていたのでしょう。1943年、各地の句会に出席する旅の途中に三国を訪れ、愛子を見舞います。帰途の列車で虹を見たのが契機となり、有名な相聞句を詠むのです。

虹立ちて忽ち君の在る如し  虚子

虹消えて忽ち君の無き如し  虚子

1947年、愛子の病状が悪化。亡くなる直前、愛子が虚子に打った電報には次の句が認められていました。ニジ キエテスデ ニナケレド アルゴトシ アイコ

現在、鎌倉の寿福寺には愛子の墓が虚子の墓に向いて建てられています。薄幸の女性俳人にまっすぐやって来る冬。その生涯を知れば、作者が掲句に込めた想いは明らかではないでしょうか。私も冬の虹がかかるある日、墓所を訪れてみたいものです。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)

 

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