練乳の糸引く指の祭かな 佐藤文香「天の川銀河発電所(2017)菊は雪(2021)左右社」
「天の川銀河発電所」は1968年以降生まれの作家たちの作品を集めたアンソロジー句集。佐藤文香さんの編著です。作品を目にする機会の少ない若い作家たちの近作に触れることのできる貴重な句集です。なおこの句は今年出版された作者の第三句集「菊は雪」にも収められています。
さて掲句。祭はもともと京都の葵祭をさす言葉。しかし現在では、夏に行われる各地の祭礼の総称として用いられます。「練乳の糸引く」とは夜店のかき氷でしょうか。粘り気のある練乳が指について白い糸を引くのです。甘く楽しいだけなく、べたべたとちょっと嫌な感覚。それは祭への思いそのものです。灯の煌めく夜店には、闇が同居しています。日本の祭はディズニーランドのような世界ではありません。見せ物の興行や酒による喧嘩。馬鹿騒ぎもありました。背後の暗がりに何かが潜んでいて、迷い込むと帰れなくなる。子どもの頃、私は母の手を握りしめていたものです。練乳の甘さは悪夢の甘さ。少量の毒があるからこそ、祭は一層光り輝いているのでしょう。
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(夏)
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html