からだごと透けてあかるい冬の水 鴇田智哉「エレメンツ(2020)素粒社」
透き通った悲しみのようなものを感じるのは私だけでしょうか。例えば津波で亡くなった人々のこと。波にさらわれ、葬ることも出来ない人々が沢山いらっしゃいます。もしかしたら、そういう文脈で解釈することも可能だったかもしれません。しかし作者はあとがきにこう記しています。「この句集において、ある句が、震災に関連する、あるいは新型コロナウイルスに関連する、あるいは病床に関連すると推測できるまとまりのなかに置かれているからといって、その句は私の意識としては『震災詠』でも『コロナ詠』でも『病床詠』でもない。あるのは心の偏差。私は題を詠んでいるのではなく、あくまで、そこにある私を詠んでいるのである。あるいは、そこに影響を受けて変容する私が、何か、を詠んでいるのである。」と。ここに記されているのは一句への強い思い。作者の現在地がわかる言葉です。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html