サイダー【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】




生きてゐるサイダー死んでゐるサイダー 小池康生

先頃惜しまれつつ亡くなられた作者の作品です。若い方への俳句の指導に尽力され、俳句甲子園にも大きな足跡を残されました。現代的な感性を持ち、見過ごされがちな小さな出来事にも詩を見出す方でした。

さて掲句。サイダーに生死があるなんて思いもしませんでした。でも言われてみると容易に想像できます。元気よく泡立っているのが生きているサイダー。泡が消えて生ぬるくなっているのが死んでゐるサイダー。死んでいるサイダーなんて飲みたくありません。でも味を思い出すということは経験があるから。話がはずまなくて黙り込んでいるうちに、泡の消えたサイダーを一口飲んでしまったことがあるから。まずいのは気まずいからです。いいえ洒落ではなく、ものの味には気分が影響します。にぎやかで楽しい集りなら、生ぬるいサイダーでも美味。死んだサイダーには、失敗だったデートの思い出が重なります。

とまあ、以前こんな鑑賞を発表したことがあるのですが、今この句を読み返すと、少し別な感慨が湧いてきます。病気と長く付き合ってきた作者らしい、洒脱な死生感の表明だったのかも知れません。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 

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