いよかん 伊予柑【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】




俳句では動く、動かないということがよく言われます。動くとは他の季語に交換可能ということ。動かないとは、作中の季語の言い換えができないこと。もちろん動かない方が上質とされます。そんな動かない季語の一例をご紹介しましょう。

伊予柑を剝くとき痛し腱鞘炎   石田郷子

蜜柑は冬の季語ですが、伊予柑は春。一月から三月に収穫されます。香りがよくて美味ではあるのですが、皮が固くなかなか爪が立ちません。やっと爪を立てても剥くのに力が入ります。腱鞘炎が痛んだという作者。そうだろうな、と共感します。思いつくままに剥きにくいものを列挙してみると、筆頭が柘榴。まず割るのが大変。皮が厚くて硬くて、しかも果肉は種だらけ。次にニンニク。チューブや瓶のおろしニンニクが売れるのは剥きにくいからでしょう。続いて芽が出たじゃがいも。でこぼこしている上に、芽が出た部分をほじらなければなりません。侮れないのが冬瓜。見かけよりずっと皮が硬いのです。意外なところでは、しおれた蜜柑。萎びて皮が身にくっついている上に、皮が破れやすい。

こうして並べて見ると、やっぱり伊予柑が一番腱鞘炎になりそうです。しかし剥きにくいからこそ、苦労して剥いたあとは一層美味しく感じられるのでしょう。なるほど。この句の伊予柑は動きません。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 

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