敏雄忌の鈴に玉あり鳴らしけり 池田澄子「此処(2020)朔出版」
敏雄忌は12月1日。俳人・三橋敏雄(1920-2001)の忌日です。三橋敏雄は1943年に応召を受け横須賀海兵団に入団。戦後は運輸省所属の練習船事務長として日本丸や海王丸に勤務しました。こうした体験から、戦争、海、船などを詠んだ傑作が多数。
かもめ来よ天金の書を開くたび
いつせいに柱の燃ゆる都かな
戦争と畳の上の団扇かな などの作品で知られます。
さてここからが本題です。掲句は彼の句の本歌取りだと思いました。三橋敏雄は作者の俳句の師。作者は師のことをいくつもの句に詠んでいて、これもそのひとつなのです。
鈴に入る玉こそよけれ春の暮 三橋敏雄
何とも、ものうい春の暮の気分を捉えた一句。エロチックな雰囲気さえ漂わせているのは春の暮だからなのでしょう。この句と響き合う池田澄子の掲句。並べて味わうと感慨もひとしおです。鈴を鳴らして亡き師を偲ぶのも俳人ならではです。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html