ものづくし 物尽くし【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】




もの尽くしとは、歌謡の形式の一つ。清少納言の枕草子に登場することで知られます。

春はあけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこしあかりて…
夏は夜。月の頃はさらなり、やみもなほ、ほたるの多く飛びちがひたる…
秋は夕暮れ。夕日のさして山の端いと近うなりたるに…
冬はつとめて(早朝)。雪の降りたるはいふべきにもあらず…

と続きますよね。俳句にも もの尽くしがあって、列挙する楽しさを味わうことができます。例えば次の一句。カタカナ尽くしで清少納言が見たらびっくりすること間違いなし。

イブノーシンセデスバファリン一葉忌 櫂未知子

そういえば、そんな薬がありました。イブ、ノーシン、セデス、バファリン、すべて頭痛薬。井上ひさしの戯曲に「頭痛肩こり樋口一葉」がありますが、掲句はここから着想を得たのでしょうか。実際、一葉は頭痛もちだったようで、それには理由があったとのこと。箱枕の使用。日本髪をくずさないように用いた昔の枕です。首の筋肉が緊張するため頭痛の原因となったかもしれません。文机。畳に置かれた文机を前かがみで使用するとこれも頭痛の原因となります。弱視。物書きにはつらい症状です。細かい字を見ようとして目をこらすと、頭が痛くなります。今なら頭痛薬が効果を発揮したでしょうが、当時は本当につらかったでしょう。お気の毒な樋口一葉です。さて、もの尽くしの句は「ばか、はしら、かき、はまぐりや春の雪 久保田万太郎」などの先行例があります。意外に難しいのが季語の置き方。万太郎句は春の雪が絶妙ですが、同じように掲句の一葉忌も動きません。ちなみに11月23日。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 

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