年の暮同時通訳途切れなく 田中清司「草の花(2021)ふらんす堂」
年の暮は一年の終わり。「街は歳末売出し賑わい、家庭では新年を迎える用意に忙しい。すべてが慌ただしく、活気を帯びてくる」と歳時記に記されています。同時通訳は、国際会議などでなくてはならない仕事。専門用語を駆使して行われる討論を、見事に通訳してくれます。聞いていると途中で声が変わるのに気づきます。数人の人が、交代で受け持っっているのでしょう。長丁場を一人で受け持つのは不可能。チームワークがなければ、乗り切れない激務なのです。掲句の「同時通訳途切れなく」という措辞は、この絶妙な交代の様子を詠んでいるのだと思いました。考えてみれば、ゆく年と来る年。その交代も途切れなく、切れ目を感じさせません。意表をつく比喩が、無理なく使用された一句。俳句で同時通訳が詠まれるのは珍しいことですが、その大胆な着想にほれぼれとします。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)