戦争が廊下の奥に立つてゐた
白泉は無季俳句の可能性を追求した俳人です。どこの廊下でしょうか。学校?役所?長い長い廊下の奥に暗がりが広がっています。さだかには見えませんが暗がりの中に何かがぬっと立っています。長靴を履き、ゲートルを巻いた脚でしょうか。目をこらしてもよく見えません。でも何か不穏なものであることは確かです。この句は日常に隣り合わせの戦争の危機を描いています。戦争は足音高く、大通りを行進してくるものと多くの人が思っています。しかし実際に太平洋戦争を体験した白泉には、足音もなく忍び寄ってくるものという実感が濃かったのでしょう。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html