「恋は遠い日の花火ではない」というCMがありました。花火は夏の季語ですから、俳句として鑑賞することもできます。このコピーを口ずさむ一瞬、人は遠い目をする筈です。あなたにも、あの夏の、たった一度きりの、思い出がよみがえるのではないでしょうか。
恋は万葉集以来 詩歌の重要なテーマです。現代俳句では恋を詠むことは少ないかもしれませんが、是非挑戦してみることをお勧めします。恋なんかしてないから、と尻込みするあなた。嘘でも構いません。想像の恋でいいのだと正木ゆう子さんに伺いました。
ある時、勇気を出して恋をテーマにした句会を開いたことがあります。やってみると思いのほか楽しく、しかし緊張して句会の手順を間違えたり、やたらに汗が出たり。恋は年齢に関係なく人を活性化させるのだという事実を再確認しました。ではどんな句が出来たのか
夏空へ飛込む君は水しぶき あられ
高校生が作ったかのようなみずみずしい作品。作者は立派な大人の女性です。読むとちょっぴり恥ずかしくなりますが、甘酸っぱいものがこみ上げます。
香水やひと夜の果の水の音 一人
逢瀬の翌朝の香水の残り香を詠んでみました。とてもとても妻には見せられません。
短夜の永久凍土より声が 亜美
かつての恋愛を永久凍土と詠んだのでしょうか。夏の短い夜にはかつての恋が思い出されるもの。夜の暑さと永久凍土の冷たさの対照が面白い一句です。ついつい話題が盛り上がって 選評をしているつもりが、いつしか恋話となってしまいました。挙句の果てに「私には永久凍土三つあり」という無季の句まで生まれたほど。普段親しんでいる人たちに、こんな秘められた過去があるなんて思いもしませんでした。話題沸騰間違いなしの恋の句会、是非お試しあれ。
恋の句のお勧め度☆☆
さて恋の句で私が最も官能的だと思うのが次の句。
晩春の肉は舌よりはじまるか 三橋敏雄
舌よりはじまるのはディープキスでしょうか。匂うような官能が立ち上がるのは晩春という季語のせいでしょう。
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