月の客吊り玉葱をくぐり来し 小川春休
玉ねぎの収穫時期は5月から6月。茎を長く残した玉ねぎを十個から十二個ずつ束ね、風通しの良いところで一〜二ヶ月乾燥させます。これが吊り玉葱。糖度が増し美味しさがアップするだけなく、長期保存が可能となるそうです。
掲句の吊り玉葱。農家の軒先を想像させます。煌々と月の照る晩、吊り玉葱をくぐって誰かやって来たのです。月の客という雅な言い方と、吊り玉葱という庶民的なミスマッチが何とも可笑しい一句。どちらも上のほうにあって丸いものでありながら、一緒に詠まれたことは余りなさそうです。そこに目を止めた作者。つき、つりたまねぎ、と「つ」の音から始まるところや、きゃく、きし、と「き」の音を繰り返すところ。とてもよく練られています。
さて吊り玉葱をくぐって来た客。何の話があったのでしょうか。一杯やらないか、と鶏でもしめて来たのかも知れません。オニオン・リングとフライド・チキンだったらいいな。もちろん、キンキンに冷えたビールと一緒に。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html