さるすべり 百日紅【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】

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我のなき一と日が見たし百日紅  小島一慶

作者はTBSのアナウンサーとして、後にフリーのアナウンサーとして視聴者に長く愛された方。忙しい中俳句に親しみ、俳句結社「玉藻」に所属。私もいろいろな俳句の会でお目にかかったことがあります。余技とは言えない本格的な作風で知られた一慶さんですが、癌の告知を受けた後に句集を出版。早すぎる死の後も多くの人に読み継がれています。

句集の後書きに一慶さんはこう記しています。「それは本人にとって狐につままれたような出来事だった。かみさんの検査の付き添いで行った病院で、僕も序でに、CT検査を受ける事になった。夏風邪と思しき咳が、長く続いていたのだ。そして、診断。『奥さんに問題はありません。但し、ご主人の方は、重篤な肺がんです』写真にうつる右肺は、殆ど、真っ白だった。これでは、友達のオーディションに付いて行って、此方が、主役の座を射止めたようなものである。」

ユーモラスな筆致ながら、切迫した様子が伝わってきます。百日紅は花の命の長い花。赤い花が百日も咲き続けることから百日紅と表記します。「花よ、どうか自分がいなくなった世界を見届けておくれ」という痛切な思い。この句からは死への覚悟と同時に、命をいつくしむ気持ちが強く伝わってくるのです。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 

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