きり「霧(秋)天文」【ワンランク上の俳句百科 新ハイクロペディア/蜂谷一人】

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私のやうな人ゐる霧の道  野口る理

同じ現象でも季節によって呼び名が変わります。春は霞。秋は霧。ちなみに霞は日中の現象ですが、夜は朧と言います。霧の中を歩くとき、普段とは違う感覚が目覚めます。乳白色の靄に覆われて、周囲が見えなくなる。声が遠くから聞こえたりもします。掲句はそんな霧の特性を述べているのでしょう。では「私のやうな人」とは誰なのか。

ドッペルゲンガーとは、自身の姿を自分で目にする幻覚のことですが、もともとは登山の際の霧に自分の影が映る現象を呼びました。「私のやうな人」は霧に映る自分の姿かもしれませんし、知らない誰かが自分そっくりに見えたのかもしれない。霧の中ではすべてが不確か。もうないものと、まだあるものが交錯する世界です。明瞭ではありませんが、感覚はむしろ研ぎ澄まされている。

現実とはなんでしょう。脳科学者は脳が感知するものが世界のすべてだと言います。失った腕の痛みを感じたり、見えない人を見るのはあなたの脳。世界の不思議を平易な言葉で記述した一句です。

 

プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」

公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html

 

 

 

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