「ぬ」はまぎらわしい言葉です。完了の意味で使われる場合と、打消の意味で使われる場合があるからです。この二つをどう区別すればいいのか、初心者には頭の痛いところです。次の二句を御覧ください。
白玉は何処へも行かぬ母と食ぶ 轡田進
春の雲一村暗くして行きぬ 佃悦夫
どちらも「行く」という動詞に接続していますが、少しだけかたちが違います。「行か
ぬ」と「行きぬ」。どちらかが完了。どちらかが打消です。
「行く」は四段活用動詞ですから
行か(ず) 行き(て) 行く 行く(こと) 行け(ば) 行けよ と変化します。
「行かぬ」の方は、「行か(ず)」と同じ、つまり「行く」の未然形に接続。「行きぬ」の方は「行き(て)」つまり連用形に接続。これではっきりとわかりました。未然形のほうは打消の「ず」が「ぬ」に変化したもの。母という名詞にかかるため「行かず」が「行かぬ(母)」となった訳です。
ここでは「行かない(母)」という意味になります。
一方、「行きぬ」の方は、連用形+「ぬ」で完了を表します。「行ってしまった」という意味ですね。整理すると、連用形に接続する「ぬ」は完了。未然形に接続する「ぬ」は打消で後ろに名詞がきます。
ところで、動詞の中には未然形と連用形をかたちからは区別出来ないものがあります。例えば下二段活用の場合。「受く」の未然形は「受け(ず)」。連用形は「受け(て)」となり、「ぬ」をつければどちらも「受けぬ」。打消か完了か見分けるには文脈をたどるしかありません。「受けない」のか「受けてしまった」のか、随分意味が変わってしまいますよね。みなさんのため息が聞こえてきそうですが、経験をつめば意外に判別できるもの。ネバー・ギブアップと申し上げておきます。
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