例えば「落ちる」という動詞を辞書で引いてみましょう。広辞苑では お・ちる(落ちる・墜ちる・堕ちる)(自上一)とあります。最初のお・ちるは読み方。次は漢字。自上一は自動詞上一段活用を表しています。ここまではすべて口語。本稿で重要なのはその下。 文お・つ(上二)とありますよね。文は文語を表す記号。文語では「おちる」ではなく「おつ」だということを示しています。上二は上二段活用の略。口語「落ちる」と文語「落つ」を比較してみましょう。
口語:落ち(ない) 落ち(て) 落ちる 落ちる(こと) 落ちれ(ば) 落ちよ
文語:落ち(ず) 落ち(て) 落つ 落つる(こと) 落つれ(ば) 落ちよ
と変化します。太字の部分を見てください。口語の方は ち ち ちる ちる ちれ ちよ たちつてとの「ち」の一段だけに収まっています。だから上一段活用。一方文語の方は「ち」と「つ」の二段に渡っていますよね。だから上二段活用と呼ばれます。落ちる と 落つ。落ちること と 落つること。落ちれば と 落つれば 。つまり終止形、連体形、仮定形(已然形)だけ違っていて実に紛らわしい。くれぐれもご注意を。
ところで、紛らわしい上二段活用の中でも特に要注意なのが、ヤ行上二段活用。「老ゆ」「悔ゆ」「報ゆ」の三語しかありませんから覚えてしまいましょう。「老ゆ」はヤ行上二段ですから
老いず 老いて 老ゆ 老ゆること 老ゆれば 老いよ と変化します。ところが
老いず 老いて 老う 老いること 老うれば 老いよ という間違いが非常に多い。
い い ゆ ゆる ゆれ いよ が正解なのに、い い と来るのでア行と勘違いして
い い う うる うれ いよ と続けてしまう。やいゆえよ と あいうえお がよく似ているための間違いです。あと、こちらの勘違いもよく見ます。
老ひず 老ひて 老ふ 老ふること 老ふれば 老ひよ
こちらは、ヤ行なのにハ行と混同。私も俳句を始めたばかりの頃は、しょっちゅう間違えていました。笑っているあなたも他人事ではありませんよ。
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html
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