ラグビーの主に尻見てゐる感じ 太田うさぎ「また明日(2020)左右社」
ラグビーは冬の季語。「フットボールの一種で、サッカー同様、イギリスが発祥の地。秋から冬にかけて盛んに行われる」と歳時記に記されています。というより、日本開催のW杯でお馴染みですよね。掲句から感じるのは、ガッチリとしたスクラム。フォワードの選手たちがボールを間にして肩を組み、押し合います。勝敗を左右する重要なポイントで、押し勝って前に出ればボールを支配出来ます。その間観客が見ているのは選手たちの巨大な尻、尻、尻。足元のボールは見えず、泥にまみれた尻の質感のみが印象に残ります。
私事ですが、あるとき新幹線でラグビーチームと乗り合わせたことがあり、その腰回りの雄大さに驚愕したことがあります。あの小さな座席に押し込むのは到底無理、と思わせるほどの質量でした。なんとか押し込んでいらっしゃいましたが、少々お気の毒に感じたものです。ですから、掲句の主張は非常に納得できるのです。ラグビーの魅力と言えばフィールドを独走し、ハンドオフでタックルを薙ぎ払う。その爽快感は言わずもがなですが、時間配分で言えば、動きのないスクラムが結構長い。ラグビーとは、主に尻を見るスポーツ。観客の立場で言えば、まさにこれ。掲句は、ラグビーというスポーツの本質を突いています。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)