戻れぬと知りつつ冬の虹くぐる 小島明「天使(2021)ふらんす堂」
作者は詩人。俳号・猫じゃらしの名前で私たちの句会にいらっしゃっていました。一時期離れていましたが、ひょっこり戻ってきてくれたのが2021年5月。膵臓に腫瘍がみつかって、残された時間がどのくらいあるかわからないという時期でした。赤羽根めぐみさんが仲間に呼びかけて、NJ杯(猫じゃらし杯)夏雲句会をネットで開催。彼も堂々の10句を寄せてくれました。その中の一句がこちらです。
注射痕多き八十八夜の手 猫じゃらし
闘病については語りませんでしたが、この一句が想像させます。
そして掲句。戻れない運命を悟りつつ、なお探求をやめない姿勢が表れています。儚くも美しい冬の虹は、彼・小島明さんが生涯をかけて探し続けた何かの象徴なのではないでしょうか。
関富士子さんが句集の後書きにこう記していらっしゃいます。
「四月末、ネットJ句会夏雲システムの披講のあとの談話室で、彼は次のように書いた。公の文章の形で作句について語った、最初で最後の言葉だった。
・・・けれど、例えば芭蕉の
閑かさや岩にしみ入る蟬の声
の句を読んだ時、読者はそこに ひりひりするような現実の摩擦感を感じないでしょうか?眼前にある日常の世界から、ふだんは隠されている事物の本質をつかみ取ろうという姿勢に、スリリングな精神の冒険を感じとらないでしょうか?・・・俳句に詠んでいいのは、一見どうでもいいことのように見えて、実はどうでもよくないこと だけです。僕が俳句を詠む人に望むのは、突き詰めればそれだけであり、僕のいう切実さとは、そういう意味だと理解していただけるとありがたいです。
自句をすべてテキスト入力し、句集のための選を済ませ、最後の原稿校正を終えた数日後、俳人・小島明は息を引き取った。病気がわかってからわずか二か月半だった。」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html
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