恋をはる葱汁を小鍋にうつす 生駒大祐「水界園丁(2019)港の人」
沢山作った葱汁を小鍋に移して温める。小鍋はきっと一人用の鍋。今日からは一人の食事なのです。日常のなんでもない景色でありながら心惹かれます。恋が終わっても人は生きなければなりません。どんなに激しい恋でも終わってしまえば、立ち上がらなくてはならない。立ち上がるためには食べなければならないのです。食べることで日常が戻り、止まっていた時間が流れ始めます。葱は日常を象徴する食べ物。おふくろの味であり、家族の思い出とともにある食べ物。恋人が去っても、自分には支えてくれる家族がいる。それを思い出すことで少しだけ強くなれます。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(冬)