台本になく咳き込んでをりにけり 夏井いつき「伊月集 龍(2015復刊)朝日出版社」
俳句を始めた頃から30代までの句を集めた句集の復刻版です。早くからテレビで活躍してきた作者。今でこそ台本なしのフリートークの名手ですが、かつては緊張もしたのでしょう。「台本になく咳き込む」とは、本物の咳ではなく時間稼ぎの咳のことだと思いました。俳句には詠んだ人の人となりが表れるもの。初々しい作者の姿です。
さて句集の前書きに、作者の俳句の師にあたる黒田杏子さんがこんなことを書いています。杏子さんが詩人のジャック・スタム氏と、作者の住む松山を訪れたときのこと。作者を見てスタム氏が「あの人センスあるね。モモコの友だちだけあるよ。ああいう女の俳人がどうも今の日本には少ないよ」と言ったとか。その時が初対面だったという杏子さん。「明るくて、頭は良さそうで、何よりいきいきとしていた。ダイナマイトを抱えたような主婦とも思えた」と回想しています。それが若き日の作者の姿。それにしてもダイナマイトを抱えた主婦とは。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html
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