一力の話など出て京は秋 星野椿「遥か(2021)鎌倉虚子立子記念館/玉藻社」
九十一歳の軌跡として出版された句集。「私には何時も大きな虚子が目の前に居た」と記しているように、虚子の孫として生まれた作者が、来し方を振り返り、遥かなものに想いを馳せたものです。中でも色濃いのが京都の追憶。昭和二十二年に出版された「虚子京遊句録(中田余瓶著)」から 後書きに句が引用されています。
朧夜や一力をでる小提灯 虚子
一力は祇園で最も格式の高いお茶屋。歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」七段目で、大星由良之助が、仇討ちの本心を隠して遊興に耽る場面でも知られます。そんな名高い場所に遊んだ虚子が詠んだ朧夜の句。濡れたように光る提灯。誰かを送るのか、それとも待ち人を迎えに出たのか。朧の中で一切が幻であったかのような効果をあげています。
一方椿さんの句は、昔を懐かしんでいます。そういえば、虚子が一力で詠んだ句があったわね。今頃京都はもう秋の装いなのかしら。
虚子句は艶やかな春、椿句はもののあはれを誘う秋。季節の違いが異なる印象を残す二句。虚子の句と共に味わうと、椿句の余韻は一層深いものになります。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html
最近の句集から選ぶ歳時記「キゴサーチ」(秋)