噴水の隅でピエロになるところ 今井聖「九月の明るい坂(2020)朔出版」
季語が動く、と言う言葉を聞いたことはありませんか。季語には本来の意味があります。噴水であれば、涼しさというのがそれに当たるでしょう。この意味を踏まえて一句に詠み込むのが「季語派」と呼ばれるグループ。「季語原理主義」と呼ばれることもあります。涼しさを感じられない使い方をすると、「季語が動く」と批評されます。つまり、噴水じゃなくても、別の季語でもいいのではないかというわけです。
一方、一句の中で季語は必要だが、本来の意味を踏まえなくてもいいというグループもあります。これまで「季語派」に当たるような名前がありませんでしたが、それでは不便なので「季語自由主義」略して「自由主義」と呼ぶことにします。ちなみに名付け親は茅根知子さんです。自由主義の人たちは、季語が入っていればいい。むしろ季語とは動くもの、という俳句観を持ってます。今井聖さんのこの句など、さしづめその典型例ではないでしょうか。
おそらく大道芸の方でしょうが、ピエロに着替えてショーに臨もうとしています。ここからは涼しさは特に感じられません。つまり、別の季語でも構わないわけです。ただ、圧倒的にリアル。実際に見た人にしか描けない言葉の迫力があります。まるで自分が今、大道芸の準備を目撃しているかのようです。
原理主義のいいところは、堂々とした句ができること。ただし類想が多いのが難点。自由主義ならば、フレッシュな句ができる代わり切れ味がよくないと共感を呼びません。どちらを選ぶかはあなた次第。正解がひとつでないので悩ましいところです。
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