俳句で大変よく使われる助詞。次の作品をご覧ください。
銀河系のとある酒場のヒヤシンス 橋閒石
銀河系の、酒場の、と「の」が続くことでリズムが生まれています。銀河系というとんでもなく広大な空間から、酒場へとズームインし、さらに酒場の片隅のヒヤシンスへともう一度ズームイン。実写では到底撮影できない二段ズームインを言葉のうえで難なくやってのけた作品です。「の」の効果を使いこなしていると言えるでしょう。
では2018年のNHK俳句に投稿された次の作品はどうでしょう。
新茶添へ見合い写真の届きけり
なんだかいい匂いがしそうで、写真の方の好感度もあがるようです。しかし岸本尚毅さんによると、「の」の位置が問題であるとのこと。そこでこう添削されました。
新茶添へ見合いの写真届きけり
「見合い写真」と「見合いの写真」の違い。つながった言葉を切り離すことで、それぞれの言葉がくっきりと際立ってきます。これは、かなり上級の添削。ズームインの効果もあれば、言葉を際立たせる効果もあって「の」の用法は簡単なようで難しい。「鮒に始まり鮒に終わる」といわれる、釣りにおけるヘラブナのような存在でしょうか。
プロフィール
蜂谷一人
1954年岡山市生まれ。俳人、画人、TVプロデューサー。「いつき組」「街」「玉藻」所属。第三十一回俳壇賞受賞。句集に「プラネタリウムの夜」「青でなくブルー」
公式サイト:http://miruhaiku.com/top.html